ともに、見る夢。
歴戦の名手念願の朝日杯、大歓声を蘇らせた日本ダービー。
不運と挫折を乗り越え、真の力を証明した有馬記念。
最高の絆を結ぶ人馬はともに、挑み続ける、走り続ける。
未来へ、世界へ、歓声を背負って、夢をめざして。
ドウデュース(英:Do Deuce)とは、2019年生まれの日本の競走馬である。
競馬界の七不思議とも言われた”武豊は朝日杯を勝てない”というジンクスを打ち破った、2020年代前半の武豊の相棒として名を馳せる馬。
主な勝ち鞍
2021年: 朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ)、アイビーステークス(L)
2022年: 東京優駿(GⅠ)
2023年: 有馬記念(GⅠ)、京都記念(GⅡ)
2024年: 天皇賞(秋)(GⅠ)、ジャパンカップ(GⅠ)
概要 ~ ”勝利目前”のその先へ
ドウデュース Do Deuce |
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生年月日 | 2019年5月7日 |
馬種 | サラブレッド |
性・毛色 | 牡・鹿毛 |
生産国 | 日本 |
生産者 | ノーザンファーム (北海道安平町) |
馬主 | (株)キーファーズ |
調教師 | 友道康夫(栗東) |
主戦騎手 | 武豊(栗東) |
馬名意味 | する+テニス用語 (=勝利目前の意) |
戦績 | 16戦8勝[8-1-1-6] |
獲得賞金 | 17億7587万5800円 |
受賞歴 | |
競走馬テンプレート |
血統・関係者
父ハーツクライ、母*ダストアンドダイヤモンズ、母父Vindication。
父は国内外でGIを2勝したサンデーサイレンス産駒。かのディープインパクトを破った唯一の日本馬でもある。種牡馬としてもジャスタウェイ、リスグラシューなど数多くの大物を輩出した。
母は重賞2勝のほか、BCフィリー&メアスプリント(GI)で2着に入着した実績を持つ米国産のダートスプリンター。
母父は米三冠馬Seattle Slew産駒。4戦4勝でBCジュヴェナイル(GI)を制し2002年のエクリプス賞最優秀2歳牡馬に選ばれたが、故障で三冠競走を前に引退した。種牡馬としては目立った実績を挙げることなく、2008年に8歳で早世している。
馬主のキーファーズは、自動車ディーラー・マツシマホールディングスの松島正昭が保有する国内馬主業用の会社[1]。松島オーナーは武豊と20年以上の親交を持つ人物で、「"武豊と"凱旋門賞を勝つ」ことを最大目標に掲げて馬主を営んでいるうえ、その目的のために欧州でも凱旋門賞に向く血統の馬を買ってアイルランドの名調教師エイダン・オブライエンの厩舎に入厩させた上で武豊に騎乗させるほどの、筋金入りの武豊ファンでもある。
余談だが、松島オーナーの実娘・松島悠衣はキーファーズが関わる一口馬主クラブ・インゼルレーシング(外部サイト)の代表取締役を務めており、こちらにも武豊の騎乗機会が多い。
馬名ドウデュースは松島オーナーが彫刻家名和晃平と京都で食事をしているときに聞いた「どうどす?」から連想して名和から提案された[2]。
2歳 (2021年)
栗東の名門・友道康夫厩舎に入厩し、もちろん武豊を鞍上に2歳9月の小倉競馬場でデビュー(なお、この後も”基本的に”武騎手が騎乗したため、騎乗者は省略する)。
1.7倍の1番人気に支持され、中団からスローを見越して早々と押し上げる積極的な競馬を見せ、直線の叩き合いをクビ差制して勝利を収める。
2戦目は関東へ遠征し、近年ではソウルスターリングやクロノジェネシスの活躍で出世レースとして名高くなったアイビーステークス(L)へ出走。
2番人気に支持されたドウデュースは馬体重+12kgで出走し、3、4番手から直線半ばで先頭に立ち、後続の追撃を退け再びクビ差で勝利。一気にOP馬に昇格する。
3戦目は朝日杯FS(GI)。メンバー中唯一の重賞2勝馬セリフォスが2.4倍、札幌2歳Sを圧勝したジオグリフが3.2倍と2頭の無敗馬が2強の支持を集め、本馬はやや離れた7.8倍の3番人気に支持された。
5枠9番からスタートしたドウデュース/武豊は、新馬戦に近い中団やや後方の外目ポジションへ。ペースがやや流れる中でも落ち着いて追走し、9番手で直線へ向く。ここで大外に出て進出開始し、叩き合いを繰り広げる先行馬との差をグイグイと詰め、抜け出していた1番人気セリフォスを残り100mでかわして先頭に立つ。なおも食い下がるセリフォスを上がり最速タイの脚で完全に競り落とし、最後は半馬身差をつけてゴール。3連勝で無傷のGⅠ勝利を成し遂げた。
キーファーズにとっては念願の国内GⅠ初制覇。これまで国内GⅠ・77勝を挙げてきた武騎手は現役35年目、国内GⅠ78勝目、22回目の挑戦にして初の朝日杯勝利。「競馬界の七不思議」とすら言われたジンクスを破った武騎手は、珍しくウイニングランで繰り返しのガッツポーズを見せ、「ようやくこのレースを勝てて嬉しいです」と笑顔をこぼした。残るはホープフルステークスのみ。
なお、この勝利で令和元年5月7日生まれのドウデュースは初の「令和生まれJRAGⅠ馬」ともなった(同年阪神JFを勝ったサークルオブライフは改元前の平成31年3月27日生まれ)。
朝日杯の勝利によって、翌年発表された2021年JRA賞では最優秀2歳牡馬を受賞。歴史的快挙を馬名通り目前へ進めた馬として、ドウデュースはクラシック戦線へ高らかに名乗りを上げたのであった。
3歳 (2022年)
春シーズン
朝日杯から程なくして「弥生賞を経て皐月賞へ向かう」というプランが発表され、予定通り年明け初戦は弥生賞ディープインパクト記念(GII)。1番人気に支持されたドウデュースは中団からレースを進め、最終直線で加速するが、道中先頭とほぼ差がない2番手につけていたアスクビクターモア(後の菊花賞馬である)には届かず、2着に終わった。
弥生賞で獲得した優先出走権を行使し、予定通り皐月賞(GI)出走となったが、ここで松島オーナー&武騎手の悲願ともいえる凱旋門賞への登録が発表される。ドウデュースにとっての春クラシックは、遠征の決断を左右する重要な意味合いも持つことになった。
当日は人気が割れる中、3.9倍の1番人気に支持され、6枠12番からスタート。武騎手は「(ハイペースの)展開を読んで」後方からの競馬を選択。しかし実際には逃げ馬のデシエルトが出遅れてしまい、1000m60秒2と平均ペースに落ち着いた上、小回りの中山で後方から大外を回される致命的な不利を被ってしまう。それでも最終直線では上がり最速となる33秒8の末脚を使って懸命に追い込んだが、前々で上手く立ち回ったジオグリフとイクイノックスを捕まえるには至らず、3着に敗れる。
ポテンシャルを見せていただけに悔しい敗北となってしまった中、大舞台日本ダービー(GI)へ。皐月賞4着で東京向きと見られたダノンベルーガが単勝3.5倍の1番人気。皐月賞2着のイクイノックスが3.8倍の2番人気となり、ドウデュースは4.2倍の3番人気に支持される。4番人気となった皐月賞馬ジオグリフ(5.9倍)までが一桁オッズ内に密接する四強の様相となった。
7枠13番から発走したドウデュース。武騎手は前走同様控える競馬を選択し、後ろ目に構える。外枠に固まった他の人気馬たちも軒並み控え、ドウデュースはジオグリフとダノンベルーガの背後という絶好位につけた。さらに今回はしっかりスタートを切ったデシエルトがスタート1000m58秒9と早いペースで流したため、後方待機がハマり始める。
そのまま中団後方で直線を向いたドウデュース。残り400mあまりでトップスピードに到達すると、ハイペースにより潰れていく先行馬を別次元の勢いで斬って捨て、内で一歩速く抜け出したダノンベルーガと先行策から一頭粘っていたアスクビクターモアも一瞬で置き去りにする。そこへさらに後方に控えていたイクイノックスが外から猛追してきたが、ドウデュースも最後まで譲らず、クビ差振り切ってゴール板を通過。6万人の大観衆[3]が見守る中、第89代日本ダービー馬の栄光に輝いた。
勝ち時計は2分21秒9。4着のダノンベルーガ(2分22秒3)までが前年シャフリヤールの記録したレコード(2分22秒5)を上回るハイレベルな結果の中、それをコンマ6秒破る破格のダービーレコードであった。
友道調教師は2022年時点の調教師現役最多・歴代2位となる3度目のダービー制覇。勝利後インタビューでは「昔から武豊騎手に憧れてこの世界に入っていますから、武豊騎手と人気をしてダービーを勝てるのは感無量です」と喜びを語った。
武騎手は史上最年長ダービージョッキー記録を更新[4]し、2013年のキズナ以来9年ぶり、自身が持つ史上最多記録も更新する6度目のダービー制覇を成し遂げ、中央GI80勝の大台へ王手をかけた。ウイニングランでは満面の笑顔を見せ、スタンドの観衆も万雷の拍手と防疫上の観点からはよろしくなかったがユタカコールで祝福を贈った。
なお、朝日杯勝ち馬のクラシック勝利は2013年の皐月賞馬ロゴタイプ以来9年ぶり。ダービー勝利に限れば、1994年のナリタブライアン以来実に28年ぶりの出来事となった。
秋シーズン
ダービーで好走できた場合のフランス遠征は決定事項だったようで、秋シーズンはフランス遠征から始まることになった。当初は「のんびりした性格故長期滞在を放牧と間違う可能性がある」となんともゆるい理由から直行で挑む予定であったが[5]、「コースを経験させたい」という友道師の意向によりニエル賞を叩きとして使うことになった[6]。なお、アイリッシュチャンピオンステークス(愛G1)への登録も発表されていたが、こちらは回避となった。
ニエル賞(GⅡ)では最後方からレースを進め、最終直線からスパートをかけるが、先頭集団には届かず4着に終わった。とはいえ当初から叩きということもあり、関係者も「ロンシャンの馬場を経験できて良かった」「まだ全力を出せる状態ではなかった」と概ね前向きだった。
日本から合流したタイトルホルダー、ディープボンド、ステイフーリッシュらと共に、ドウデュースは本番の凱旋門賞(GⅠ)へ。しかしレース直前から降り始めた雨の影響で馬場状態が大きく悪化し、発送時刻にはカメラ映像が霞むほどの豪雨になってしまう。ドウデュースは終始後方のままほとんどレースにならず、最後は軽く流した走りで19着に大敗(ちなみに日本馬最高位は11着のタイトルホルダー)。ロンシャンの極悪馬場はダービー馬にも容赦なく牙を剥いたのであった。
帰国後はジャパンカップを目指す予定とのことだったが、状態が整わないとして回避。その間にダービーで負かしたイクイノックスが古馬相手に天皇賞(秋)と有馬記念を勝利し、翌年発表の2022年の年度代表馬と最優秀3歳牡馬は持っていかれてしまった。
4歳 (2023年)
春シーズン
ドバイターフを大目標として、始動戦には京都記念(GII)が選択された。馬体重は海外未計測の都合、ダービーから+18kgとなったが、馬体は仕上がっており、堂々の一番人気。
レース本番もダービー同様、中盤で脚を溜め、最終コーナーで鞍上のGOサインがでるや一気に内に飛び込み、最終直線でライバルをみるみる突き離して完勝する。
こうくれば再びの海外遠征となるドバイターフ(GⅠ)への期待も高まろうというもの。出国前の追い切りでもものすごいタイムを出していたのだが……。ドバイ到着後、現地の獣医による左前肢跛行の診断により、出走2日目前に無念の出走取消。そのまま帰国と相成った。
春はこのまま休養に入り、国内路線に専念。目標は秋古馬三冠である。
秋シーズン
第一戦・天皇賞(秋)(GⅠ)では、ダービー以来1年半ぶりとなるイクイノックスとの対決が注目された。ドバイシーマクラシックで世界中の競馬関係者を驚愕させ、帰国後の宝塚記念でも破天荒な追込で勝利をもぎ取ったこの怪物を始め、札幌記念を圧勝したプログノーシス、春秋天皇賞連覇を見据えるジャスティンパレスなどが参戦。スターズオンアースとアサマノイタズラの回避もあり、11頭立ての少頭数ながら不足のないメンバーが揃った。だが……。
レース当日、東京5レースの騎乗を終えた武騎手は、下馬した騎乗馬に右太ももを蹴られ、以降の騎乗が不可能になってしまったのだ。よりにもよって蹴ってしまったブラックライズはインゼルレーシングの馬であった。急遽、戸崎圭太が乗り替わりの鞍上を務めることになった。日本中の競馬ファンは悲鳴を上げたことだろうが、本番2時間前に武豊専用馬とも言われるドウデュースを託された戸崎騎手の心中も察するに余りある。
本番。戸崎騎手は無理をしないことを前提に、3枠3番からまずまずゲートを出た後はちょうど中団に控える競馬を選択。イクイノックスを終始視界に捉える絶好位を確保する。ペースはジャックドールが57秒7でぶっ飛ばし、馬群もばらけてどこからでも行けそうな展開。戸崎騎手は4コーナーから手を動かし始め、直線入り口でイクイノックスの外から仕掛けた。……が、持ったままのイクイノックスとの差が全く縮まらない。それどころか、軽く追い出されただけのイクイノックスとの差が一気に開いていく……!
ドウデュースは追えども追えども伸びず、残り200mで完全に失速。後続にも次々と差され、結局7着で入線した。2着3着は最後方からの追込であり、不利な展開ではあったものの、それは勝ったイクイノックスも同じ。それどころかイクイノックスは従来値を0.9秒も更新するスーパーレコードまで叩き出しており、ただただ力の差を突きつけられることになってしまった。
第二戦・ジャパンカップ(GⅠ)では、イクイノックスに加え、当年の三冠牝馬リバティアイランドを筆頭に超豪華メンバーが集結。引き続き戸崎騎手が鞍上となるドウデュースは3番人気になったが、単勝オッズでは13.2倍。イクイノックス、リバティアイランドの上位2頭とは水を開けられてしまった。
本番では前目の好ポジションを取り、直線も上がり2位の末脚は使ったが、3番手にいたイクイノックスがまたもや上がり最速の豪脚を繰り出して他馬を置き去りにしてゴールイン。ドウデュースはリバティアイランドとスターズオンアースにも後れを取って4着に敗れた。
国内外GⅠ・6連勝の大記録を打ち立てたイクイノックスはこのレースを最後に引退。1勝2敗のまま、彼にリベンジする機会は永遠に失われた。
ここまで思うように結果が出ないのは、騎手が変わったからなのか、それとも体格の変化で2000m以上は長すぎるようになってきたのか……。様々な憶測が飛び交う中、陣営は泣いても笑ってもこれが年内最終戦・有馬記念(GⅠ)に向かう。ドウデュースを心の支えに療養していた武騎手も「ドウデュースの有馬がなければ復帰は来年にしていた」という宣言と共に帰ってきた。
有馬人気投票・上位2頭のイクイノックスとリバティアイランドが不出走ながら、スターズオンアース、タイトルホルダーらJC組に加え、秋天以来のジャスティンパレス、凱旋門賞4着のスルーセブンシーズが集い、この年のクラシック勢からも皐月賞馬ソールオリエンスとダービー馬タスティエーラが参戦する豪華メンバー。人気は割れに割れ、有馬記念史上初めて単勝オッズ1桁圏内に7頭がひしめく超混戦模様となった。
最終的に5.2倍の2番人気に支持されたドウデュースは、3枠5番の絶好枠を確保。武騎手は調教で行きたがる素振りを感じ、小回りコースの中山では分が悪い「後方からの競馬」を考えていた。ドウデュースの末脚を信じたのである。
本番、武騎手は予定通り後ろに下げてじっと折り合いをつける。3コーナーから軽く促され、大外を捲り上げて進出したドウデュースは、道中2番手にいたスターズオンアースに並びかけながら直線に向く。前にはタイトルホルダーが3馬身近くリードしていたが1完歩ごとに差を詰め、内のスターズオンアースと競り合いながら残り50mあまりでタイトルホルダーをかわす。最後まで続いたスターズオンアースとの叩き合いも譲ることなく、半馬身差でねじ伏せゴール板を通過。ダービー以来のGⅠ・3勝目を挙げ、スタンドにはダービー以来の「ユタカ」コールが響いた。
ドバイ出走取消に主戦の負傷離脱と、「最も幸運な馬が勝つ」筈のダービーを勝った馬なのに妙に不運に見舞われ続けた一年だったが、最後の最後で苦闘が報われた。前年のイクイノックス - キタサンブラックに続き、ドウデュース - ハーツクライは史上6例目の有馬記念・親子制覇を達成。ダービー馬の有馬記念勝利はオルフェーヴル以来10年ぶり。キーファーズは勿論、友道師にとっても初グランプリ制覇。有馬記念4勝目となった武騎手は、インタビューでは開口一番「ドウデュースも私も帰ってきました!」と観客席へ力強く一言。「この馬はこんなもんじゃ無いと思って、この馬が一番強いと思って乗った。ドウデュースという名馬と有馬記念に挑めて本当に幸せ」と笑顔をのぞかせた。
5歳 (2024年)
春シーズン
友道師は凱旋門賞再挑戦を発表。春の始動戦にはドバイターフへのリベンジが選択された。
出国前の追い切りでは猛時計をマークし、輸送で相変わらずの大食いエピソードを増やしつつ、獣医検査も一発クリア。出走前は装鞍所からの移動中に馬っ気を出しているところを全世界に放映された上に友道師に竿へ水をかけられてご立派ァ!が萎えていく様まで撮られた。、「ドウデュースのドウデュース」がXでトレンド入りする羽目になった。実はドウデュースが装鞍所で馬っ気を出すのはいつものことなようで、ある意味いつも通りの調子を保てていたということであろうか。
本番は国内オッズで単勝2.1倍の1番人気に推される。そして4番枠からスタートした……が痛恨の出遅れ。しかも終始内に閉じ込められ、前の馬群もなかなかバラけず脚を持ち出せない苦しい展開となってしまう。最後の100mでようやく進路が開けて追い込むも、前残り傾向もあったこの日のメイダンの馬場では止まらない前を差し切るに至らず、5着入線。武騎手も「不完全燃焼」「本来のパフォーマンスが出来なかった」と悔しさを滲ませた。
帰国後の春2戦目は、京都競馬場での代替開催になる宝塚記念(GⅠ)へ。"逆襲の末脚"で春秋グランプリ連覇の陣営の意気込みもあり、人気投票は圧倒的1位。オッズも前日時点では2.0倍を切る堂々の一番人気。
だが、開催日前日から凱旋門賞の苦い思い出がよぎる大雨が降りしきり、排水に定評のあるはずの改修後・京都競馬場は不良馬場に。レース開始前に雨が止むが、それでも馬場・重。
目立った対抗GⅠホースは、先の有馬記念で下したジャスティンパレス・ソールオリエンスということもあり、一番人気をそのまま背負って出走したドウデュース/武豊だったが、その前に重馬場巧者が立ちはだかった。3番人気で同期ながら出世が遅れ、この年長距離戦線で名を上げたブローザホーンである。最後尾を走るドウデュースの左側をピッタリマークしていたブローザホーン/菅原明良は、走り慣れた淀の坂から一気にスパートし、先行する他馬を振り切って圧勝。ドウデュースは後方から直線空いたインを突き、末脚に賭けるも行き脚は鈍く……。掲示板外の6着入線だった。
秋シーズン
重馬場での敗戦によって、凱旋門賞挑戦は白紙に。松島オーナーは今年いっぱいでの引退と、最終目標を秋古馬三冠とする旨を発表した。しかしそこは武豊ガチ勢の松島オーナー、凱旋門賞にはアイルランドの共同購入馬でベルリン大賞を完勝したGⅠ2勝馬・アルリファーに武豊を乗せて送り込んだ(結果は11着)。
ラストシーズン初戦は天皇賞(秋)。相手には本年のドバイ遠征以来となるリバティアイランド、重賞連勝で波に乗る「帝王の孫」レーベンスティールなどが集った。ドウデュースは相変わらず調教で抜群の動きを見せ、実績もあってリバティアイランドに次ぐ2番人気に支持された。
4枠7番からいつも通り普通に出たドウデュースだが、武騎手は有馬記念と同じ「道中の不利を極力回避し、末脚に賭ける」作戦を選び、後ろから2~3頭目の位置につく。前は1000m59秒9とさほど流れず、展開も淡々として追込馬には苦しい展開になっていくが、鞍上は全く焦らず、固まった馬群を見るように後方2番手で4コーナーを回る。そして狙い通りに大外に持ち出されて徐々に加速し、残り2ハロンの地点でGOサインが出ると……ドウデュースは弾けた。
かつて武騎手に導かれたスペシャルウィークの「逆襲のラン」の様に、凄まじい加速で先行馬たちをごぼう抜き! 残り40~30m辺りで先頭に立っても唸るような足は衰えず、先行策から王道の競馬で追いすがってきたタスティエーラを1馬身1/4差置き去りにする完勝を収めたのであった。上がり3ハロンの数字はJRA・GⅠ勝利馬では史上最速の32秒5[7]。実にラップタイムにして10.94秒-10.56秒-10.98秒の10秒台三連発。
GⅠ・4勝目となるドウデュースは、ゴールドシップ以来7頭目となる4年連続でのJRA・GⅠ制覇を達成。2歳~5歳での記録に限ればブエナビスタ以来4頭目、牡馬では初の偉業を成し遂げた。武騎手は保田隆芳に並ぶ史上最多タイの秋天7勝目、春秋通算で史上最多の天皇賞15勝目。これまで秋天では複勝圏内すらなかった友道厩舎にとっては初制覇となった。
次走、ジャパンカップ。世界からはGI6勝のディープインパクト産駒オーギュストロダン、KGVI&QESの勝ち馬ゴリアット、2023年の独ダービー馬ファンタスティックムーンが参戦し、日本勢も二冠牝馬チェルヴィニア、前年3着のスターズオンアースなど強力なメンバーが集結。ドウデュースは単勝2.3倍の1番人気に推され、日本総大将として世界の強豪たちとの決戦に挑むことになった。
3枠3番からゲートは五分に出たが、前走同様に位置を下げていき、一時は最後方になろうかという後方2番手からの競馬。人気どころは前に固まり、戦前から予想されていたとおり1000mは62秒2という超スローペースに落ち着く。これを見越したドゥレッツァが向こう正面で先頭に押し上げるなど先団は目まぐるしくポジションが入れ替わり、ドウデュース自身も3角あたりから相当行きたがる素振りを見せ、武騎手はガッチリと抑えて大欅を通過する。
遅すぎるペースとドウデュースのやる気、そして有馬記念でロングスパートをかけた経験から、武騎手は残り700mからの早仕掛けを決断。ドウデュースは待ってましたと言わんばかりに4角で一塊になった馬群を切って捨て、直線僅か150mほどで先頭に躍り出た。しかし早々に先頭に立ったドゥレッツァの脚色は衰えず激しい叩き合いになり、さらに序盤にハナを切り中盤以降脚を溜めていた凱旋門賞帰りの3歳馬シンエンペラーも最内を突いて追走。3頭並んで200mあまり競り合いが続くデッドヒートとなったが、ゴール前で最後の一伸びを見せたドウデュースが2頭をクビ差しのぎきり勝利。2着以下は完全な前残り決着の中、最後方から末脚と根性で押し切る圧巻の競馬でGⅠ5勝目を手にした。
上がり3ハロンは32秒7。2012年に32秒8を記録したジェンティルドンナを上回るジャパンカップ勝利馬史上最速であり、天皇賞(秋)に続いて新記録を打ち立てた[8]。武騎手は2016年のキタサンブラック以来となるJC5勝目。前年C.ルメールに並ばれていたJC最多勝利記録を更新し再び単独トップとなった。その歴戦の武騎手も、道中引っかかってから繰り出された破格の末脚に「アンビリーバブル」「半マイルどんだけで上がったんやろな」「こんな馬いないで」と驚嘆の言葉が止まらなかった。また、友道師は2017年シュヴァルグラン以来の7年ぶり2勝目。
レース後、ラストランの有馬記念出走が表明される。人気投票では第1回中間発表の時点で既に19万票超えの圧倒的な得票を集め、最終結果では従来の最多得票数記録(2022年タイトルホルダーの36万8304票)を大幅に更新する47万8415票もの支持を集めた。有効投票件数は53万9916件だったので、実に88.6%の投票率になる。当日の指定席抽選も、最低倍率ですら23.6倍(Eブロック1F)、最高倍率に至っては337.4倍(ボックスシート)の超プラチナチケットとなった。
枠順抽選会では絶好の、そして両隣に上位人気が予想されるダノンデサイルとアーバンシックが入る1枠2番[9]となり、秋古馬三冠、そしてウシュバテソーロの日本馬歴代獲得賞金、テイエムオペラオーのJRA年間獲得賞金の記録更新への期待は膨らみに膨らみ、ファンのボルテージは最高潮に達した。
……だが、レースを2日後に控えた12月20日、ドウデュースは朝の運動後に右前肢の跛行を発症。関係者協議の結果、出走取消の上に引退式も中止が決定。数多くの記録は見果てぬ夢に終わってしまったのだった。
中山競馬場11Rは第69回グランプリ有馬記念(GI)、芝2500m、芝・良のコンディション。
16頭のところ残念ながら去年の覇者、そして引退レース、2番のドウデュースは金曜日に右前肢跛行のため出走を取り消しました。しかし、主役無き有馬記念ではありません。新たなHEROが生まれる有馬記念。──しかしここであえて言わせていただきたい。
ありがとうドウデュース、そしてさようならドウデュース。
あまりにも唐突に、そして無念極まりない幕切れとなってしまった競走馬生。しかしそれも、彼に更なる使命があるからこその決断である。次は種牡馬として、最大の好敵手イクイノックスとの第2ラウンドに突入していく。
私はいつか、ドウデュースの子供で武豊ジョッキーを背にパリロンシャンで日の丸を上げるという夢の続きを目標に頑張ります。
ファンの皆様、これからも応援して頂きますようにお願い申し上げます。
ドウデュースの引退にあたり私の感謝の言葉といたします。皆様、本当にありがとうございました。─松島正昭 「ドウデュースファンの皆様へ」より
さらっと武豊が59歳まで現役続行することになってる……。
余談
- 友道厩舎での担当者、前川和也調教助手からは「おどう」の愛称で呼ばれている。さらに略されて「ど」になることも。他にも「どう」「おどどん」もある。
- 友道調教師曰く、オンオフの切り替えが出来るおとなしい性格の一方、寂しがり屋で甘えん坊でもあるとのこと。
- 前川助手からは「元気ですね。あんまり物怖じもしないし、度胸もある」と性格を評されている[12]。
- 日本ダービーの出走前、輪乗りしていたときに石川さゆりの国歌独唱の間だけ立ち止まっていたという。
- 厩舎への取材では度々「タフ」「頑丈」という評が出ているが、実際レコードも出る超高速決着となったダービーから数日後にライバルたちの故障や不調が次々と判明する中、当の勝ち馬の彼は何のダメージも無く平然と日課のメニューをこなしていたという信じがたいタフさを見せている。
- 水をすぐに飲み込まず、しばらく口の中に含む謎の癖を持っている。[17]
- かなりの大食いかつ太りやすい体質。その食い意地の強さと体重管理の苦労を示すエピソードが取材の度に次々と判明している(次項参照)。
おどう大食い伝説
- ありあまりすぎる元気の発散も兼ねて日常的にプール調教をこなさせないとあっという間に太ってしまう(実際のプール調教の様子)。
- あまりにプールに慣れすぎた結果、流れるプールで浮遊する遊びを始めるようになった。
- 歴戦の友道師をして「なかなかこんなにモリモリ食べる馬居ない」と言わせしめた。[18]
- 前川助手からの評は「食欲の化身」。
- 調教帰りに文字通りの道草を大量に頬張る姿が目撃された。
- 厩舎では常に飯くれアピール。[19]
- 初遠征となったアイビーSの際、厩舎は輸送でいくらか馬体重が減ることを見越して飼い葉を少し多めに食べさせた。しかし輸送後も全く体重の減る気配が無く、前走比+12kg。[20]
- ダービーのパドックでミストを浴びせようとしたら植え込みの花を食べた。[21]
- ダービーからの帰厩後だけでなく、栗東への帰路中もずっと飼い葉を食べていた。[23]
- そしてこんな調子なので三日後にはもうプール送りにされていた。
- 2022年6月に馬用プールが無いノーザンファームしがらきへ放牧に出された際には、ダービーから2週間しか経っていないにもかかわらず、馬体重がもう17kgも増加していた。そして一ヶ月半後にはさらに+25kg。
- 同年7月28日に栗東トレセンへ帰厩し減量も開始したが、8月4日にはもう500kgに戻った(-32kg)とのことなので、絞れやすい体質でもある模様。
- 2022年のフランス遠征行きの飛行機の中でもやはりずっと飼い葉を食べていた。
- あまりに延々と食べているので、近況報告用の動画を撮影していたスタッフから「ずっと食ってる……」と少し引かれた。
- 帯同馬のマイラプソディの機内食も横からつつこうとしていた。
- フランスの滞在先でも道草を食べるのかと思いきや、体を洗われながら道草どころか生垣を食べていた。
- フランス遠征前半、プール無し環境と食べ過ぎが祟り、ニエル賞のパドックで松島オーナーからも「あ、太……」と思われるほどに激太りした。[24]
- 武豊騎手によると「体重計がないので分からないが、ダービーよりも40kgくらい太い感じ」だという。前川助手曰くさすがに実際は+40kgはないとのことだが、ニエル賞でクリスチャン・デムーロ騎手などの陣営外からも「太い!」とツッコまれるほど太めになっていたのは確かである。
- 2023年春のドバイ行きの飛行機で、到着時に一頭だけ牧草ネット(機内食)が空になっていた。[25]
- 食事を残したことがないどころか、多くの馬が残す(つまりあまり美味しくないはずの)馬房常置の乾草も残さず平らげてしまうため常置にならない。[26]
- トレセンで体重を絞っても、遠征時は競馬場の滞在厩舎で寝藁を食べてしまうので結局体重が戻ってしまう。[27]
- 2024年春のドバイ行きの飛行機でも轟音を全く意に介さず一心不乱に飼い葉を食べていた。
- なんでもよく食べるが、何故か塩だけは苦手。[29]
- レース翌日でも全く食欲が落ちずいつものように飼葉を平らげるため、SNSでは「松島オーナーの無事とドウデュースの飼葉完食が確認されてはじめて全人馬無事完走」という流れが出来上がってしまった。
血統表
ドウデュースの血統 | |||
ハーツクライ 2001 鹿毛 |
*サンデーサイレンス Sunday Silence 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
アイリッシュダンス 1990 鹿毛 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
*ビューパーダンス | Lyphard | ||
My Bupers | |||
*ダストアンドダイヤモンズ Dust and Diamonds 2008 鹿毛 FNo.3-d |
Vindication 2000 黒鹿毛 |
Seattle Slew | Bold Reasoning |
My Charmer | |||
Strawberry Reason | *ストロベリーロード | ||
Pretty Reason | |||
Majestically 2002 黒鹿毛 |
Gone West | Mr. Prospector | |
Secrettame | |||
Darling Dame | Lyphard | ||
Darling Lady | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Lyphard 4×4(12.50%)、Hail to Reason 4×5(9.38%)
牝系を遡ると5代母で*ダンシングブレーヴ(凱旋門賞など)、Jolypha(仏GI2勝)兄妹の祖母でもあるOlmecに辿り着く。Olmecの牝系には他にメイショウベルーガ・メイショウテンゲン親子がいる。
関連動画
関連静画
関連リンク
関連項目
脚注
- *松島オーナーは海外でも複数の馬を所有しており、2021年のジャパンカップに参戦したアイルランド馬の"Japan"と"Broome"も彼の所有馬である。海外では個人名義を用いているが、日本国内では法人名義で馬主を営んでいる。
- *ドウデュース 名前の由来は「どうどす?」 松島オーナーが明かす名付け親は世界的彫刻家― スポニチ Sponichi Annex ギャンブル
- *コロナ禍になってからのダービーは2020年が無観客、2021年が数千人の入場規制の下行われていたが、2022年はそれが7万人にまで大幅に緩和され、スタンドを埋め尽くすほどの「大観衆」が戻ってきた最初のダービーであった。
- *それまでの最年長記録は増沢末夫騎手の48歳7ヶ月。
- *2022年6月1日の取材より。
- *netkeiba "ドウデュースがニエル賞から凱旋門賞へ 来週栗東に帰厩"より。
- *勝利馬以外も含めるとアーモンドアイが2019年の安田記念で出した32秒4がJRA・GI最速上がり記録となっている(結果は3着)。
- *JC全体では2012年に3着となったルーラーシップと並ぶ最速タイ記録。
- *奇しくも、7年前に武騎手がキタサンブラックで有馬を制した際の枠番と同じであった。
- *テレビ東京系「ウイニング競馬」2023年9月23日放送分より。
- *BS11"BSイレブン競馬中継"2022年5月29日放送分より。
- *競馬ブックnote記事「よく食べ、よく走る ~ドウデュース~」より。
- *脚注10に同じ。
- *キーファーズサロン『松島正昭独占インタビュー!!凱旋門賞を勝ち取る為に』より。
- *UMATOKU『【有馬記念】国内外G1・24勝を誇る名将が驚くドウデュースのタフネス&回復力「マカヒキ、ワグネリアンとは違う」』より。
- *UMATOKU『ドウデュース、有馬記念Vから一夜明けもカイバをペロリ』より。
- *スポーツ報知水納愛美記者の2024年10月14日のXポストより。
- *脚注9に同じ。
- *netkeiba "NONFICTION FILE"より。
- *朝日杯後のYahoo!ニュースの取材より。
- *月刊『優駿』2022年7月号より。
- *日本調教師会の2022年6月1日の取材より。
- *中日スポーツ2022年5月30日の記事より。
- *脚注13に同じ。
- *2023年3月16日の前川助手のInstagram Liveより。
- *netkeiba"【イクイノックス×ドウデュース】担当助手だけに見せる素顔を徹底比較! 両陣営に共通の質問をぶつけてみた(番外編)"より。
- *キーファーズトレセンレポート2023年12月20日分より。
- *前川助手の2024年3月21日のInstagramストーリーズより。
- *2024年3月27日の前川助手のInstagram Liveより。
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