鈴原サクラとは、アニメ映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの登場人物である。
概要
同シリーズの主人公「碇シンジ」の友人「鈴原トウジ」の妹である。名前は同アニメ映画シリーズ第三作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』にて初めて判明した。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの元になっているテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』でも、名前は明かされていないが鈴原トウジの妹については言及されていた。「鈴原サクラ」と「同一のキャラクター」であると言い切れるわけではないが、本記事ではこの「名前不明の、トウジの妹」についても触れる。
新世紀エヴァンゲリオン
テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第壱拾四話「ゼーレ、魂の座」で読み上げられたトウジの作文(?)によれば、彼の妹は小学2年生。中学2年生であるトウジやシンジらとは6学年差ということになる。
第参話「鳴らない、電話」で鈴原トウジが初登場したシーンでの台詞で、すぐに彼の妹について言及される。第三使徒サキエルの襲来の際に瓦礫の下敷きになり、命は取り留めたがずっと入院しているのだと語られた。
トウジはその負傷の原因について、エヴァンゲリオン初号機のパイロットがヘボで初号機が暴れたためだと考えていた。そして、碇シンジがそのパイロットだと知ったことで、トウジは彼に暴行を加えてしまうのだった。
しかしこの暴行を機に鈴原トウジおよびそのクラスメートの相田ケンスケが碇シンジと積極的に関わっていくことになり、果ては友人同士になったとも言える。彼ら三人の友人関係の遠因となったと言えるかもしれない。
トウジのやつさ、反省してた。妹に説教されたらしいよ。「私たちを救ってくれたのは、あのロボットなのよ」って。小学校低学年に説教されるなっての、ホント。
第拾七話「四人目の適格者」では彼女が入院している病院の看護師の台詞において、彼女の怪我が「なかなか難しいみたい」であること、そしてトウジが週2回は必ずお見舞いに来ていると語られた。
そして続く第拾八話「命の選択を」では、トウジがエヴァンゲリオンのパイロットであるフォース・チルドレンになるためにトウジが出した条件が、「妹をネルフ本部の医学部に転院させてほしい」というものだったことが「赤木リツコ」の台詞で語られた。
上記のように、彼女の存在は全て「他のキャラクターからの言及」という形で伝えられるのみであり、映像に登場することは全く無かった。また、名前で呼ばれることがなかったので名前については不明であり、二次創作などでファンから勝手に名前が付けられることもあったという。
新世紀エヴァンゲリオン2
2003年に発売されたテレビゲーム『新世紀エヴァンゲリオン2』でも鈴原トウジの妹が登場し、名前が「鈴原ナツミ」と設定されていた。
「キャラゲーの一つにおいて勝手につけられた名前にすぎない」と言えなくもなかったが、このゲームは『新世紀エヴァンゲリオン』の制作会社であるガイナックスが監修し、また庵野秀明へのインタビューを元にした世界設定の謎を明らかにする情報をも収録していることを売りとしていた。また他に名前の候補となる情報が公式側から全く提示されていないこともあって、作品ファンの間ではこの「鈴原ナツミ」という名前が準公式のように扱われていたという。
ちなみにこのゲーム内での「鈴原ナツミ」の声は、他のキャラクター「伊吹マヤ」の担当声優である長沢美樹が兼任していたという。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
新劇場版シリーズ第一作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』では、鈴原トウジの友人「相田ケンスケ」の台詞で「悪いね。この間の騒ぎで、あいつの妹さん怪我しちゃってさ」と一言触れられるのみであり、名前が呼ばれることは無く、台詞もなく、映像にも登場しなかった。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
新劇場版シリーズ第二作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』では、調子が回復してきたことがやはりケンスケの台詞で伝えられ、その後に更に回復して病院から退院したことが伝えられるシーンでは、2カット(片方は遠景のため、しっかり映るのは1カット)のみ映像に登場した。
その際にはトウジが嬉しそうに小学校低学年~中学年と思われる外見の彼女の頭にほおずりしており、彼女は少し困ったような笑みを受かべていた。まさに退院するときのシーンであるらしく、彼女は祝いの花束を持っており、病院の出入り口の前で医師や看護師と思われる人々に見送られている。
やはり彼女の台詞は無かったので内面等は描写されしなかったし名前も呼ばれなかったが、ケンスケが
とシンジに伝えており、「彼女はシンジに感謝している」という情報のみが判明した。
「感謝」の理由については語られなかったが、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で登場した台詞「私たちを救ってくれたのはあのロボットなのよ」と同様の理由ではないかとは推測できる。
なお余談だが、実際の映画完成品には採用されなかったもののこの映画の「画コンテ」の準備稿には「教室で、トウジが「がんばってください。お兄ちゃんと仲よくね♡」と書かれた妹からの手紙(かわいい便せんに書かれており、初号機の手作り人形付き)をシンジに渡し、うれしいシンジはトウジに「……ありがとう」とお礼を言う」シーンが存在していたとのこと。2010年に発売された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録全集』と言う書籍に収録されているらしい。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
新劇場版シリーズ第三作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』では、前作から14年経過した姿の彼女が登場した。
ネルフに反抗する軍事組織「ヴィレ」に所属する少尉となっており、ヴィレが所有する空中戦艦「AAA ヴンダー」の乗員として、14年前の姿・精神で再出現した碇シンジの身体・精神状態のチェックなどを行った。
シンジに「碇さんの管理担当医官、鈴原サクラ少尉です」と自己紹介し、困惑したシンジが問い返すと「はい、お兄ちゃんがお世話になりました。妹のサクラです」と和やかな会話をする一幕もあった。
だがシンジが首に巻かれた「DSSチョーカー」(装着者がエヴァを覚醒させかけると、爆殺することでそれを抑止する首輪。任意での起爆も可能)について「なんなんですかこれ? 外してくださいよもう……」と不満を訴えた際には、「絶対に外しませんよ……それ」と独りごちたり、またシンジに「勝手もいいですけど、エヴァにだけは乗らんでくださいよ! ホンマ勘弁してほしいわ」と、兄トウジのような関西弁で実感のこもったような言葉を漏らすなど、シンジがエヴァを覚醒させることを心底厭うような言動をしていた。
赤木リツコから「シンジと初号機とのシンクロ率は0%であり、シンジはエヴァを起動できなくなっている」という情報を知らされた時には、喜色を浮かべて「そっか、よかったですね碇さん!」とシンジに声をかけている。シンジが初号機を操れないことに自分が安堵するとともに、「その方がシンジにとっても良い事なのだ」と考えているらしいことが伺える。
シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
以下の記述には、ネタバレが含まれます。 |
新劇場版シリーズ第四作『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』でも登場。
AAAヴンダーに意識を失った状態で帰還したシンジが目覚めた瞬間には彼女がシンジの顔を覗き込んでいた。
しかし自分が別れ際に「エヴァに乗らんでください」とあんなにも真剣に頼んだのに結局シンジがエヴァに乗っていたことに憤慨しつつ心配もしていたようで、シンジが彼女の顔を認識して「鈴原……サクラさん?」と言うなりサクラは彼の頬を叩き、
と言いながら、彼に泣きついてしまった。式波・アスカ・ラングレーはそれを見て「女房か、あんたは……」と呆れていた。混乱したり動揺したりすると関西弁が激しく出るようだ。
また、アスカがトウジからのサクラへの手紙を手渡し、サクラはその手紙に付されていたトウジ一家の写真を見て泣いていた。
気持ちが落ち着いてからはそれなりにシンジと穏やかなやり取りもできるようになったようで、サクラの居室らしきところ(他のヴィレのクルー「北上ミドリ」と同室であるようだ)から、監禁部屋に居るシンジに対して和やかな声で電話連絡するシーンも描かれた。
だが、シンジがエヴァに乗って戦おうと決意したシーンでは、突然発砲しつつ登場。シンジを止めようとして声を震わせつつ銃を突きつける。しかしその時にサクラの口をついて出たのは単純な憎悪や恐怖ではなく、
碇シンジはエヴァには乗りません!
碇さんはエヴァに乗って、みんなを不幸にして、自分自身も不幸になったんや
だからもう、碇さんはエヴァには乗らんのです!
という、「碇シンジがエヴァに乗ると彼自身も不幸になってしまう」ということをも心配する思いであった。
それでもエヴァに乗る決心を崩さないシンジに対しては、激しく狼狽しつつ
無茶言わんといて碇さん!
怪我したらもう乗らんで済みます!
痛いですけど、エヴァに乗るよりはマシですから、我慢してください!
と、「怪我をさせてでも止める方がシンジのため」という考えを曲げず、発砲する。
その銃弾からシンジをかばって腹部を負傷した葛城ミサトは「14年前にシンジが初号機に乗って戦わなかったならば自分たちは滅んでいた」と語ってシンジに感謝の念を伝えたが、そのことはサクラも重々承知の上であったようで
そうや ! 碇さんは私らを救ってくれた恩人や!
けど、うちらのお父ちゃんもニアサーで消えてもうたんやぞ!?
碇さんは恩人で! 仇なんや!
もうこうするしかないんや!
という、碇シンジを恩人として深く感謝する気持ちと、逆にニアサー(ニアサードインパクト)の要因として強く恨んでしまう気持ちが入り混じった複雑な思いを、泣きながら吐露した。
言ってみれば、幼いころに兄であるトウジが「お前のせいで妹が」とシンジを殴った気持ちと、「シンジが戦ってくれたおかげで自分たちは助けられたのだ」と感謝していた幼い頃の自分自身の気持ち、それらに似た両極端の思いがないまぜになった気持ちをシンジに抱いていたようだ。
そして北上ミドリが「もういい ! もういいよサクラ もう、明日生きてくことだけを考えよ?」となだめたことで、
もおぉー、なんやの……
という声をこぼしつつ座り込んでしまうのだった。
その後は冷静さを取り戻して職務に復帰できたようで、葛城ミサトの銃創(サクラ自身の発砲によるもの)の応急処置をしつつ
弾はすぐに溶けます。今応急処置してますから
と励ましたり(ミサトは「大丈夫よ少尉」と返答している)、他の医療メンバーとともに負傷者と思われる者を搬送しつつ退艦を急ぐシーンなどが描かれた。
余談
- 碇シンジのことを「碇さん」と呼ぶ珍しいキャラクターである。作中の登場人物らは基本的に碇シンジの事を「くん」付け、または呼び捨て、あるいは別名的な呼称(トウジの「センセイ」、アスカの「バカシンジ」、戦略自衛隊員の「サード」、真希波・マリ・イラストリアスの「ワンコくん」、北上ミドリの「疫病神」など)で呼んでおり、少なくともいわゆる「本編」であるテレビアニメ・旧劇場版・新劇場版内においては、碇シンジを「さん」付けで呼ぶ人物は彼女しか存在していない(ゲームや漫画などの、多数の「外伝」的派生作品では誰か存在していたかもしれないが)。彼女が碇シンジを「年上の人」と認識しているために「さん」付けをしているのだろうか。実際には、『Q』や『シン』の劇中では彼女の方が年上になってしまっているのだが。
以下の記述には、ネタバレが含まれます。 |
- 2021年4月11日に行われた『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の「大ヒット御礼舞台挨拶」においては、鶴巻和哉監督と庵野秀明総監督により、鈴原サクラの台詞のアフレコ事情に関する以下のようなトークが語られた。「難しい状況でのドラマが展開されるところ」とだけ語られており「どこのシーンか」が明言されているわけではないが、ファンの間では上記の銃撃のシーンでの演技を指しているのではないかと推測されている。
鶴巻「鈴原サクラさんの沢城さんのところかな。結構難しい状況でのドラマが展開されるところで。不安だったんですよねあそこはね。僕なりにはかなり不安で。だったんだけど……あれ一発オッケーでしたよね確かね?」
鶴巻「あそうでしたね」
庵野「テストオッケーなんです。沢城さんみたいなタイプは、グヮーッとアフレコ前に台本読んで溜め切って、で溜めたものを一番最初に出しちゃうんす。だから最初をとらないとダメ。で2回目以降は、たぶん最初に出したものを、もうちょっとうまくやろうとかそっちにいくタイプの人だと思うんで。まぁとにかく最初が大事です。で最初すごい良かったんですよ。で本編に入っているのも最初のテイクなんで。でそのあと、この鶴巻とか「こっちの方が」「こっちの方が」ってきたけど、「いや最初をもう一回聴きなおして」って聴き「あっ、これでいいです」っていう」
- 上記の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の終盤に見せた「怪我したらもう乗らんで済みます! 痛いですけど、エヴァに乗るよりはマシですから我慢してください!」などの「シンジがエヴァに乗らなくて済むようにしてあげようとする」一連の言動について、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』において綾波レイが見せた「碇くんが……もう、エヴァに乗らなくても、いいようにする!」と語るヒロイン的なシーンとの同根のものを感じた観客もいたらしい。「動機」の面では似ていたかもしれない。実際の行動の向かう先は「シンジのために捨て身で使徒に立ち向かっていく」と「シンジを銃撃する」とで、正反対なまでに異なっているが。
- 上記の銃撃シーンでサクラが使用していた拳銃について「旧劇場版25話『Air』で赤木リツコが碇ゲンドウに向けていた特徴的な形の拳銃と同型のもののように見える」との指摘がある。仮に偶然ではなく意図的に拳銃の選択を合わせたのだとすればセルフオマージュの類という事になり、「どちらも重い情念が籠もっている」ことの表現なのかもしれない。ちなみにその拳銃は、ロシアの「KBP」社のリボルバー拳銃「R-92」または「R-92KS」ではないかと言われる。
- 上記の赤木リツコのエピソードの他、『新世紀エヴァンゲリオン』や『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』と同じく庵野秀明が総監督を務めた1990~1991年放映のテレビアニメ『ふしぎの海のナディア』の第22話「裏切りのエレクトラ」を想起したファンも居たという。同作の女性キャラクター「エレクトラ」は上官である「ネモ艦長」にかつて命を救われているが、必要なことだったとはいえ大災害を惹き起こしてエレクトラの家族の死を招いたのもそのネモであった。そのため、エレクトラはネモに対する深い愛憎が入り混じった感情を密かに抱えていた。この回ではその想いがついに爆発してしまい、エレクトラはネモに銃を向けつつ涙を流す。
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